
宅配ボックス、郵便ポスト、インターフォンの機能に加え、暗くなると太陽光発電で自動点灯
時代劇の番組を一話見るだけで何度も登場するのが辻燈籠(辻行灯とも呼ぶ)。
武家屋敷や町奉行所の前、料亭や蕎麦屋の前等で、玄関灯や街灯として様々なとこで使われていました。
一方、令和のネットショップの時代の玄関を象徴する宅配ボックス。
承継樓では、辻燈籠の、袴部分の大きな空洞部を、大工さんに加工していただき、宅配ボックスとしました。

そして点灯部を郵便ポストとして活用し、切妻屋根の棟木下の妻虹梁に乗せる形で、パナソニックのインターフォンのワイヤレス子機を設置しました。
これにより、江戸時代の玄関灯辻燈籠が、元々の電灯機能に加えて、宅配ボックス、郵便ポスト、インターフォンの「4刀流」燈籠に生まれ変わりました。
火を灯していた江戸の辻燈籠の光源は、承継樓ではソーラパネル。
辻燈籠の南面に設置されたソーラパネルが日中に蓄電し、暗くなると明暗センサーによりLEDライトが自動点灯します。
LEDライトの灯を美しく映し出す点燈面には、柏崎高柳の門出(かどいで)和紙の手漉き和紙と、上越市の猪俣美術建具製作の組子細工を使用しています。


隈研吾氏と小林康生氏が可能にした令和の辻燈籠の美
辻燈籠の4方の点燈面のうち、ソーラパネルを設置した南面以外の東西北3面には、門出和紙が貼られています。
和紙以外に適切な素材がない江戸時代ではなく令和の今、風雨にさらされる玄関燈に、わざわざ濡れて破れてしまう和紙を使うことはあり得ないでしょう。
令和の辻燈籠に、敢えて和紙を活用するための超常識的ヒントと師匠を、隈研吾氏の著書「自然な建築」から得ました。

承継樓の辻燈籠の和紙活用の師匠は、門出和紙の小林康生氏です。
実は、これまで隣市にある小林氏の工房前を何度か車で通り過ぎていました。隈氏のこの書籍を過去に読んでいましたが、書籍に登場する和紙職人がその工房の主であることを、恥ずかしながら全く認識していませんでした。
承継樓の風雨にさらされる玄関に設置する辻燈籠の灯を映す面に、是非とも和紙を使いたいと考えたときに、改めて「自然の建築」にあった強固な和紙の話を思い出し、読み直しました。
そして、隈氏が「和紙だけで内と外を仕切った建築」の実現に共に取り組んだパートナーが、これまで車で通り過ぎていた和紙工房の主、小林氏であることを初めて認識し、早速駆け込みました。
令和の辻燈籠の東西北3面の和紙に貼った3枚のうち、1枚は、門出和紙工房の手漉き和紙体験で小林氏の直接指導のもと自ら漉いた作品です。
そしてその自作の和紙に、風雨に耐えられるように、小林氏の教えに従ってこんにゃくを塗った完全自作の一枚です。
もう一枚は、小林氏の工房の多くの和紙製品のなかで、強度の高い和紙を購入し、それに自らこんにゃくを塗ったものです。
そしてもう一枚は、門出和紙の一流の職人さんにお願いして、家紋の九曜紋を、オーダーメイドで一枚ずつ丁寧に型染めしていただいた貴重なものです。
ちなみに、小林氏の門出和紙の工房では和紙の原料となる「楮(こうぞ)」を自家栽培しています。

新潟の銘酒「久保田」のラベルに使われている和紙は、門出和紙の工房で創られたものです。
門出和紙における和紙の生産量は膨大であり、自家栽培の楮がすべての和紙に使用されているわけではありません。
また、隈氏設計のサントリー美術館の和紙の壁も、門出和紙によるものです。