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古民家カフェ 平左衛門 上越市桑取谷

古民家カフェ平左衛門(以下「平左衛門カフェ」)は、上越市桑取谷の最奥にある、築190年になる茅葺古民家を現地再生したカフェです。
極めて豊かな自然環境のなかで、四季を感じながら、優美な古民家の空間で、郷土料理を採り入れた食事やスイーツ等、桑取谷の豊かな食を満喫できる場です。

はさがけの様子

平左衛門カフェに向かう道中、東京からのお客様は、初めて見るはさがけに感動し、カフェに着いたら、先刻見たばかりの、はさがけ米のおにぎりがメニューにあることに感動し、食べてはそのお米と具の美味しさに感動し、三度立て続けに感動しておられました。

はさがけ米のおにぎり

桑取谷産の食材を味わう唯一無二の飲食体験に加えて、平左衛門カフェに関して、たいせつ古民家として、是非着目したいのが、その再生方法の素晴らしさです。

平左衛門カフェは、特定非営利活動法人かみえちご山里ファン倶楽部(以下「同倶楽部」により運営されています。同倶楽部は、桑取を含む上越市の西部中山間地域をフィールドに、多面的な地域づくり活動に、長年取り組んできておられます。
そしてその活動内容が、知れば知るほど感動的で、平左衛門カフェにおける古民家再生もその一つです。

具体的には、同倶楽部主催の、古民家再生技術を学ぶ「ことことむらづくり学校」の体験学習の場が、平左衛門カフェの古民家再生でした。
地元の職人さんたちとボランティアが、2004年から約10年かけて、「ことことむらづくり学校」に参加し、古民家再生技術を学びながら、江戸後期に築かれた古民家の再生に取り組みました。

「ことことむらづくり学校」で塗られた下の写真の土壁は、藁が露わで風情豊かです。

地域の人が古民家再生技術を自ら学び、技術を継承しながら、地域の歴史遺産である古民家を再生し、地域の食材を提供する素敵なカフェ事業を運営して、地域の活性化につなげる仕組みとその実行力に、驚きと感動を禁じ得ません。

平左衛門カフェの古民家建築としての魅力の一つは、西頸城地方特有の鉄砲梁が、ふんだんに、そして間近にに見られる贅沢です。

美しい鉄砲梁をこれほどふんだんに、そして間近に見られることに感動します。

鉄砲梁の美を、見て満喫するだけでなく、カフェに展示されている下の2つの資料も必見です。

上図右側の断面図と、下図左側の見取り図において、鉄砲梁が、全体の構造のなかのどの部分に、どのように使われているか、理解を深めることができます。

そして、上手右側の説明文も必読です。
豪雪地の積雪荷重に耐えられるように、鉄砲梁などの曲り材を、どのような仕組みで接合して構造強化をはかっているか、詳しい説明がなされています。鉄砲梁を受け止める「マクラ」のような、江戸後期の西頸城の匠ならでは技に感銘を受けます。
上の写真でも、鉄砲梁を受け止めているマクラを見て取れますが、是非、平左衛門カフェで実際に自らの目で見て、マクラを確認してみたいですね。

また天井部分の「あんじき」の説明等から、江戸後期の農家の暮らしをうかがい知ることができます。

西頸城地方特有の鉄砲梁

上下の写真の中央にある天井の一部に竹が見えるところが「あんじき」です。あんじきは、直径2㎝程度の竹を簾状に並べたものです。囲炉裏からたちのぼる煙があんじきを通って、天井裏の茅葺屋根下の空間へ入り込み、茅葺屋根が燻され防腐、防虫効果を保ちます。

竹を簾状に並べたあんじき

鉄砲梁以外にも、こんなユニークな曲がり材が眼前に迫まり、あたりも曲がり材だらけの状態に、「いったいどうなってるんだ!?」となります。現代建築の四角で構成された空間に慣れきった私たちの脳が、一瞬ついていけなくなります。

上の写真の左で、柱として使われている大きく曲がった材に注目してください。
下の写真を見るとわかるのは、この柱はなんと、一階から立ちあがり、二階の天井の梁を支えています。
曲がり材のなかでも、太く直線部が長いものが選ばれ、縦に立てて柱として使われているように見えます。上越市の㈱山岸建工の棟梁によると、この曲り材の柱は、構造の強度を高めるために敢えてこのような組み方で使わているそうです。

下の写真では、鉄砲梁の縦方向の曲がりに対して、横方向に曲がった材を使っていますね。

曲がり材を梁や柱として、各所に巧みに組み込み、建物の構造強度を高める江戸期の大工さんの技に感心してしまいます。
曲がり材は、構造の強化の知恵であると同時に、周辺で採れる様々な材を無駄にせずに、有効活用する、エコでサステナブルな暮らしの知恵の象徴と言えるのではないでしょうか。

ここまでくると、平左衛門カフェは「曲がり材美術館」といっても過言ではないかもしれませんね。

構造以外にも見どころは満載です。
まず、玄関を入ると、手桶に浮かぶ色とりどりの大小の花々と緑が迎えてくれます。

広く開放的土間では、立派な飴色の受付カウンターテーブルも、自然に落ち着いておさまっています。
土間でも、曲がり材が使われていますね。(下の写真の中央奥に見える階段上部)

シックな土間の空間に、飴色のカウンターの背景にある、障子の格子と白のコントラストが、映えています。

レジ前の様子

式台を上がると左手に、圓窓が飛び込んできます。
圓の曲線と左下の欠けの直線で、アシンメトリーに縁どられた壁の厚みが創り出す絶妙ないびつ感の先に、光を映す障子に浮かぶ格子の繊細な線が美しいです。

圓窓からの数寄屋風の採光以外にも、高く積もった雪の上からも採光できるよう、窓の位置に工夫が凝らされています。豪雪地ならでは造作ですね。

趣のある店内

かき氷に地元の湧き水を、ソーダドリンクにも自家製梅を使っており、唯一無二の特別感と美味しさに大満足でした。

自家製梅ソーダ
湧き水かき氷 いちごシロップ
湧き水かき氷 梅シソシロップ
湧き水

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